APPLE VINEGAR - Music Award -

Apple Vinegar Music Award 受賞者インタビュー

文:猪又孝 写真:山川哲矢

後藤 今日は授賞式に来てくださって、ありがとうございます。

JJJ こちらこそ、選んでくださってありがとうございます。いつも自分たちのいないところというか、ヒップホップシーンじゃないところからこういう賞をもらえたのはすごく嬉しいです。

後藤 今日は緊張して、ここまで来たんですよ。普通にただのファンとして聴いてたから(笑)。さっそく賞金もお渡ししますね。

JJJ ありがとうございます。うわ、重みがありますね(笑)。

後藤 ぜひ機材とかに使ってもらえれば。

JJJ はい。大事に使わせてもらいます。

——改めて後藤さんから今回のアワードを設立した経緯を教えてもらえますか?

後藤 音楽業界ってデビューしたての新人にはお金をいっぱい使って宣伝したりするんですけど、新人としての見切りの付けられ方が早いというか、そのあとすごく良い作品を出していてもスルーされるような状況が多いので、2枚目、3枚目くらいまでのアルバムをちゃんと評価したかったんです。たとえば芥川賞は去年、60歳過ぎた岩手のお母さん(若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」)が獲ったり、幅広い。だったら、日本の音楽業界にも、そういうふうに新人の幅を広く捉えた賞があってもいいだろうと。海外だとグラミー賞とか、ちゃんとした賞があるのが、すごく羨ましいですよね。

——グラミー賞も新人の対象が広いですよね。発売日やデビュー日じゃなく「この1年で活躍した人」というのが選考基準になっている。

後藤 しかも、最近は解釈も広がって、チャンス・ザ・ラッパーがフィジカル作品なしで受賞したり、世の中の流れに対するリアクションもいい。あと、お金をミュージシャンにちゃんと回したい気持ちもあるんです。お金にならないということで音楽をやめてしまう人が多いから。そうじゃなくて、いい作品をつくった人がちゃんと評価されて、次の作品に投資できるような、リスナーも増えていくような賞があるといいなと思って、このアワードを立ち上げました。

——選考会で後藤さんはJJJさんの『HIKARI』を大賞に推していましたが、その決め手となった理由は?

後藤 音がユニークだったというのはありますね。今だったら海外のTrapとかを直輸入することも可能というか、大抵そうなるんでしょうけど、『HIKARI』はサンプリングが多めで。僕はカニエ・ウェストの『Late Registration』というアルバムがすごく好きなんです。ヒップホップに惹かれたのは、自分の中でカニエの登場が大きくて。『HIKARI』にはあのアルバムからも感じるような、ヒップホップという文化自体に対する愛を感じるし、こういう作品がもっと広く聴かれたら音楽シーンにとって幸せだなと思って一票入れました。

JJJ そこまで言って頂けて本当に嬉しいです。今回のノミネート作品を見たときに、俺じゃないだろうなと思ってたんですよ。作品に自信はありますけど、みんなが好きなのは俺のヤツじゃないだろうなと思ってたから(笑)。まあ、俺のアルバムがこの中でいちばんカッコイイとは思ってたんですけど。

後藤  JJJくんの存在はFla$hBackSで知ったんです。ファースト『FL$8KS』が出たときに、トラックがメチャクチャいいと思ったんですよ。だから、音で持って行かれたこともあって、その後もずっと動きを気にしてて。

——『FL$8KS』は2013年リリースでした。

後藤 時代がラップミュージックに移っていくっていうことは、もう2000年代の後半には気づいていたんです。そうしたらPSGが出てきたり、5lack(当時はS.L.A.C.K.表記)のファースト(『My Space』)に驚いたり。で、SIMI LABが出てきて、Fla$hBackSが出てきて、「言葉の時代になっていくんだな」っていうのを痛感してたんです。リリックというものがメチャクチャ大事になっていくぞと。俺はロックミュージシャンだけど、書き手という意味では負けられないというか、ちゃんと張り合って書いていかないとラップの文字数と情報量に勝てないなって。そういう気持ちでいろいろ聴いてたんですよね。そういうなかでFla$hBackSを見つけて、なんかもう衝撃でした。俺が10代だったらラッパーになりたいって思うだろうなって。ギター買わないかもしれないって(笑)。 今日は聞きたいことがいっぱいあるんですけど、ロックの畑の僕からすると、サンプリングと生音の割合とか、そういう部分にすごく興味があるんです。

JJJ 基本的にサンプリングで上ネタを作っていくんですけど、いいネタが見つかったらそのフレーズを聞きまくって、それをすごく細かくちぎるんですよ。それを貼り絵みたいな感じで、入れ替えたり、違うところをくっつけたりしてループを作って、そのうえにドラムを入れていくんです。

後藤 最近はバンドでヒップホップをやる人も増えてるじゃないですか。そういうのはどういうふうに考えてます?。

JJJ (Fla$hBackS のメンバーでもある)KID FRESINOが最近、バンドでライブをやってますね。バンドでやるとCDの音圧とはまた違うパワーがあって、みんなそれが好きなのかなと思います。

後藤 バンドでやると音源よりエモーショナルになりますよね。

JJJ そうですね。あと、ドラムが生きてるから、俺もバンドでやったときラップがしやすかったんですよ。そこにバンドでやる理由がひとつあるのかなって。

後藤 JJJくんがトラックの中にギターだけ生で入れたりするのは?。

JJJ いちばんカッコイイと思うのがギターの音なんです。とりあえず作ってるときにコブシを上げたくなる(笑)。

後藤 素材として面白いっていうことだよね(笑)。

JJJ 突き抜けてるじゃないですか、ギターの音って。EDMとか他にもいっぱい突き抜けた音はありますけど、俺は古めかしいものを新しく聞かせたいっていう気持ちがあって、ギターが好きな理由はそこだと思います。