APPLE VINEGAR - Music Award - 2021

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文:和田哲郎(FNMNL) 撮影:山川哲矢 取材協力:J-WAVE(81.3FM)

——改めて今回の授賞の理由というか、後藤さんの『Boston Bag』の良かった点を教えていただけますか?

Gotch ラジオでも言ったんですけど、BIMくんの「こういうラッパーなんだ」っていう個性が音楽を聴いて分かったというか……作風が凄く確立された感じがします。「BIM印」みたいなものがラップにもトラックにもついている。自分で作品を作っていても、例えば「あ、これでアジカン印がついた」みたいな、自分たちらしい表現を獲得出来たかどうかっていうところで、すごく苦労する。『Boston Bag』にはブレイクスルーがあるように感じられて、将来からBIMくんのキャリアを振り返っても、一つの大事な作品なのかなと。特に10作を選ぶときに、そこを結構評価して入れさせて貰いました。すみません、上から。

BIM いやいや、上だなんてそんな......。普通にファンでもあるんで。非常に照れましたね。Gotchさんの顔を見れず(笑)。

——(笑)。自分でも『Boston Bag』が出来上がった時に、そういう到達点のような意識はありましたか?

BIM 「俺は凄く好きだけど、みんなはどうかな?大丈夫かな?」っていう不安は、リリース前は正直ありました。

——その不安というのはどういう部分で?

BIM それこそ、さっきのラジオの中でもお話ししたんですけど、コロナの時に一人で家にいて自分と対話して作るって感じだったので、俺の考えていることが本当に世の中で認められるのかを試す場が「リリース」しか無かったから。それが怖かったですね。

——後藤さんは先ほどラジオで「THE OTOGIBANASHI'Sの時から知ってる」とお話しされていましたが、『Boston Bag』で感じた変化というか、到達した部分はどの辺りだと思いますか?

Gotch ずっとBIMくんを定点観察していて、失礼ですけど「どうやってPUNPEE殺しをするのかな」っていう角度で眺めていたんですよね。比較されるのはPUNPEEなんだろうなと思っていたから、違いは絶対にどこかで見せつけないといけないんじゃないかと思って聴いてました。『Boston Bag』を聴いたら全然違うのがよく分かる。もちろん同じレーベルの先輩だし、リスペクトもあるだろうし、そういう中でBIMくんなりの特別さをどこで表すのかなって思ったときに、『Boston Bag』を聴くと比較するのが失礼というか、ちゃんと個性が立っていた。凄くうぜぇファンの一人として「ここは勝負なんじゃないか」っていう感情移入があったんですよ。だから、そこに打ち勝ったアルバムでもあるというか。このフックとメロディのセンスは、「BIM」にしか出来ないものに聴こえたので。

BIM 今のコメントは感動しましたね。今のをちょっと音源で聴いて、「BIMにしか出来ないこと」っていうのを擦りたい(笑)。

Gotch 本当に、ちゃんと戦いがあったんだと思うというか。

——1stソロの『The Beam』を出してから『Boston Bag』に至るまでに、使うトラックの多様性が凄く広がったなと感じていて。本人的に使えるトラックの幅は意識的に広げていったんですか?

BIM 曲を作ってる人は皆さんそうだと思うんですけど、曲を作る時に今までやったこと無いことをやりたいっていうのが、最新曲では毎回思うんです。それをやっていたら今まで使ったこと無いようなトラックで自分がどうラップするのかを楽しんでやったことが、多様性っていう風に見ていただけてるのかなと思いますね。

——チャレンジが楽しく出来るようになってきている。

BIM そうですね。先にフロウを思いついてる時もありますけど、自分でトラック作らない曲とかは特に、トラックに対して自分がどうアプローチするのかを瞬発的に思いついて向かっていく感じで。『Boston Bag』に入ってるNo Busesと一緒にやった「Non Fiction」も、自分じゃ想像つかないようなフックが出てきたりして。そういう感じで、楽しんでやってますね。

Gotch 確かに、アルバムを聴いていてもそういう感じが伝わってきますね。楽しさというか、カッコいいだけじゃなくて、ちゃんとリラックス出来るし。それは作ってる時のバイブスやフィーリングが流れ込んでるんでしょうね。

——バンドとヒップホップの距離がどんどん近くなっていて、No BusesとBIMくんという組み合わせも字面だけ見ると不思議な感じですけど、曲に落とし込むと自然ですよね。バンドとヒップホップの距離が自然に近くなっていることについては、後藤さんはいかがですか?

Gotch 自分が大好きなTeenage FanclubってバンドがDe La Soulと一緒にやった“Fallin'”っていうめちゃくちゃカッコいい曲があって。あれがずっと理想なんですよね。奇しくも自分のソロはそっちに近づいている感じもしていて。ああいう邂逅を昔見ていて、「すげえ良い組み合わせだな」って思って。本当は違うジャンルでも緊張しあわなくてもいいのになって思うんですよね。昔は軋轢があったのかもしれないですけど。そもそも音楽好きなやつが見つかっただけでちょっと嬉しくなるぐらい、みんなそんなに音楽聴いてないじゃんって思ってるんですよ。そういう意味では、同じジャンルとは言えないかもしれないけど、「広い意味では仲間じゃん」って気持ちを色んな人に勝手に持ってますね。

BIM 同世代のバンドだとD.A.N.ってバンドと同級生だったり、KID FRESINOとかkZmとか同い年なんですけど、活動を続けていてくれるだけで凄く愛おしいという感じがありますね。

Gotch そうですよね。

BIM 「お前まだいるのか!よし、寂しくない!」みたいな感じ。ヒップホップの中でも色々スタイルがあると思うのでバラバラだったとしても、やってて音楽好きで続けてるだけで「そいつ最高!」って。

Gotch 人に対してのリスペクトの仕方も、昔と変わってる。以前はもっと嫉妬心の方がバキバキで、みんなどうやって出し抜くかってことに注力してたけど、そういう新しさってソーシャルメディアが無かった時代の新しさで。「誰が最初にやったように見せるか」ってだけであって、今は誰でもどこでも作品をアップ出来るから、見せかけの新しさってすぐに追い抜かれちゃうし。だから自分の個性を打ち立てる方がよっぽど重要だし、そういう意味では人に対する嫉妬が無くなりましたね。人の活躍を嬉しく思うようになったというか。誰かが凄いアルバムを作ったら、普通に一人のリスナーとしてもミュージシャンとしても「良かったね!最高じゃん!」って思う。

BIM みんながそうなったら最高ですよね。

Gotch そうだよね。今はそういう人が多いのかな。

BIM 増えてきているとは思いますけどね。別に人が良いアルバム作って「ちくしょう!」って思う人は、昔より減ってる気がします。それこそ俺らの世代でビーフが起こってるところとか無いですからね。

Gotch 確かに。世代的なものがあるのかな。

——それこそ年を経てというか。BIMくんも多分若い頃は......。

Gotch インタビューで読みました。FRESINOくんのこと昔ちょっと嫌いだったみたいな。

BIM 「嫌い」じゃないです、「大嫌い」(笑)。で、kZmも大嫌いだったから。「どっか行けばいいのに」って思ってたんですけど、今となっては本当に大好き。「大好き」っていうのはカットですね(笑)。気持ちが悪すぎる。良い友達ですね。

Gotch その変化はすごいですよね。気に食わないって感覚が昔はあったんだなと思って。

BIM FRESINOとかと話したりしたら言われてハッと気づいたんですけど、「普通に自信が無かったのが自信がついただけじゃないの?」って一回言われましたね。それで「そうかもしれない......」って。何かを成し遂げたわけじゃないですけど、自分で自分を肯定出来る部分が出来たから、人を肯定出来るようになったんじゃないかって言われて。大人だなって。

Gotch OTG'SとFla$hBack$って同じぐらいですよね?

BIM そうです。Febbのラップ聴いて、ラップ辞めようと思いました。「こんなラップする奴いるんだったら無理だ」って。

Gotch 当時は、ここまでSNSとかもたくさんなかったしね。

BIM それこそさっきラジオの方でもヒップホップとロックの話になりましたけど、やっぱりFla$hback$とOTG'Sが同時期に出てきて、JJJくん以外は同い年で、俺らはロックのイベントに誘われることが多くて、彼らは先輩のヒップホップの深夜のイベントにガンガン出てて。僕はロックの方の、下北とかでライブさせてもらうことが多くて。それとかが、ヒップホップじゃない方にいる自分が恥ずかしかったりする時期もありました。10代後半と20代前半の頃は。それもあって、同世代に対しての僻みとかがあったんだと思いますね。

Gotch それを考えると『Boston Bag』はさらに感動的ですね。

BIM ハハハ(笑)。

——コンプレックスとしてあったものもしっかりそのまま伸ばしているというか。

Gotch 昇華しきった感じがありますよね。

BIM 高城くんに入ってもらったり。

Gotch ロックバンドと共演してきた繋がりも、回収出来てる感じですよね。

BIM 伏線回収(笑)。

Gotch 「ざまあみろ」みたいに思わないところが良いところですよね。